昭和時代の「女子競輪」に始まり、一時は人気の低迷で消滅していた女子選手による競輪。
そんな女子競輪が「ガールズケイリン」となって復活したのは2012年のことです。
ガールズケイリンが始まってから11年以上経った今現在、着実に人気を伸ばし続けています。
しかし、選手の数は男子より圧倒的に少なく、レース自体も基本的に1開催で2レースとなっており、まだまだ色んな問題点があるのは事実。
せっかく女子競輪選手になっても、すぐにクビになってしまう選手も多く出てきました。
特に、代謝制度に関しては、男性選手よりもかなり大きな問題を抱えているように感じます。
男性選手の代謝制度についての解説や当て方などはこちらの記事を参考にしてください。
この記事では、ガールズケイリンの代謝制度のしくみや、私が思う問題点などについてわかりやすく紹介していきます。
ガールズケイリンってどんなものか知らない人や当てたい人は、こちらの記事が役に立つはずです。
ガールズケイリン女子競輪選手の代謝制度のしくみ
2011年の1期生(第102期)が競輪学校に入学し始まったガールズケイリンも、2024年には126期生がデビューします。
ガールズケイリンに登録している女子競輪選手の人数は、現在約190人。
ガールズケイリンには、級分けも班もない「L1」だけなので全選手が対象です。
代謝制度の対象になるのは、上の番組表の赤枠で囲った「競争得点」が重要になります。
- 47点未満の競走得点が2期連続
- 3期目の競走得点を合算して平均が47点未満
- 上記を満たす選手の中から下位3名が代謝
ガールズケイリンの代謝制度は数字こそ違いますが、基本的に男子競輪と同じシステムです。
代謝制度ボーダーラインの47点の目安は?
47点がどの程度のボーダーか簡単に説明してみます。
3日開催で、例えば「5着5着5着」を取り続ければ47点をキープできるほとの競争得点です。
極端な話しレースで6着や7着を取らなければ基本的には代謝制度に引っ掛かる事はありません。
しかし、ガールズケイリンは男子競輪とは違い、選手数が少ないために班分けができないのです。
班分けができない故に、ガールズケイリン特有の問題点もあぶりだされてきました。
次の項目からは、女子選手の代謝制度の問題点について私なりの意見も踏まえてお伝えしていきます。
ガールズケイリンはL1班だけで班分けがない
2012年7月、新たに生まれ変わったガールズケイリンでは、1期生にあたる102期生が33名デビューして競輪選手になりました。
2000名近い数の男子選手に比べ、始まったばかりのガールズケイリンは圧倒的に人数が少なく、当然班分けもありません。
言い方は悪いですが、当時はギャンブルというよりはちょっとしたイベントのような扱いでした。
それから13年以上経った2024年現在は、選手の数も190人ほどまでに増えたのです。
人数が増えたおかげで、2023年からはガールズ選手だけで行われるG1「オールガールズクラシック」も開催されました。
男子が毎年約70名がデビューするのに対し、ガールズは毎年約20名がデビュー。
男子ほどではありませんが、着実に選手人口も増えてきました。
班分けがないので実力差がありすぎる
しかし、未だにガールズケイリンには班分けが無く、全ての選手が「L級1班」に所属しています。
班分けが無いという事は、男子で例えると、S級S班のトップ9選手と一番下のクラスであるA級3班のチャレンジ組が一緒に走るのと一緒です。
元々の実力差、経験値の差などもあり、同じレースを走っていても上位と下位ではハッキリ言って勝負にならないレベル差があります。
ぶっちゃけ勝負になりません。
そのため予選では固い決着が多くなってしまい、「ガールズケイリンも班分けをするべき」という声もよく聞くようになりました。
新人選手のストレート代謝が問題になってきた理由
女子競輪選手の競技人口が増えて喜ばしい事も多いです。
しかし、2012年に33名がデビューしてから、毎年約20名ずつ増えているのに選手が191名というのは、まだ明らかに選手が少ないです。
実はガールズケイリンが始まった102期~124期の間に、265名のガールズ選手がデビューしているんです。
つまり現在登録されている選手が191名なので、74名の選手が引退している事になります。
その原因となっているのが、最初に紹介した2014年より導入された代謝制度です。
ガールズケイリンでは毎年前期3名、後期3名の計6名が代謝制度で強制引退になってしまいます。
人数的には、男子の1/10なので少なく見えるかもしれませんが、そもそも競技人口も1/10なので倍率は同じ程度です。
さらに、ここから班分けの無いルールが新人に重くのしかかります。
男子選手の場合はストレート代謝はほぼない
男子選手の場合、新人は一番下のランクから始まります。
当然ながら、代謝対象者も一番下のランクに値するA級3班(チャレンジ)の選手です。
A級3班(チャレンジ)には、高齢の選手や怪我で成績を大きく落としている選手が沢山おり、若手が強制代謝というケースは滅多にありません。
それに対してガールズケイリンは、新人選手がいきなり佐藤水菜選手や児玉碧衣などの、トップ選手と当たる事になります。
当然ながら、ほとんどの新人選手は、ハンデもないガチンコ対決で勝てる訳がありません。
中には、3日目の一般戦(負け戦)ですら1着を取る事ができない選手もいるほどです。
それ故に、1度も優勝できないまま引退してしまう選手が多数存在します。
それどころか、1年半という最短でストレート強制代謝になってしまう選手も現れてしまうのです。
ちなみに2023年にデビューした124期生を見てみると、24歳以下の選手が15/23名となっており、10名は19歳~21歳と非常に早いデビューの選手が目立っていました。
毎年このくらいの年齢でデビューする選手が多いです。
男子選手も同じですが、競輪選手になるには大変です。
適性や技能試験に合格し競輪養成所(競輪学校)に入所し資格検定に合格して、ようやく競輪選手の資格ができます。
せっかく競輪選手になっても、ストレート代謝だと20代前半でクビになる事も珍しくないのです。
ラインをつくれないガールズケイリン
男子選手では50代でS級1班に在籍する選手がいたり、60代でも現役を続けている選手がいます。
それに対し、ガールズケイリンの選手は30代後半~40代を境に成績を落とす選手が多いです。
体力がなくなると成績が落ちるのは理にかなっているようですが、もう一つ理由があるように思っています。
競輪には、チームを組んでラインという戦法で戦うのが一般的。
男子の場合は年を取り自力が無くなると、ラインの番手選手になったりして現役を続けています。
力が落ちても番手選手になることで、50代でもバリバリのトップ戦線で活躍する選手が沢山いる訳なのです。
しかし、ガールズケイリンではラインを組むことがルールで禁止されています。
ガールズケイリンではラインが禁止されている理由
ガールズケイリンにはラインが無いため、「自力が無くなってきたから誰かの番手で…」という事ができません。
永年自力でやって来た選手がいきなりマーク屋になる事も難しく、最後まで自力勝負をして大きな着を取り続け、最後は強制代謝という選手も多くいました。
ガールズケイリンにラインがない大きな理由は、競輪の要素も入れつつ、五輪スポーツにもなったケイリンというトラックレースの国際基準に準じているルールにしたためだとか。
実際に、女子スプリント界では女子競輪選手が国際大会でメダルをとれるほどの実力で、佐藤水菜選手などナショナルチームはパリ五輪でもメダルが期待されています。
ラインが禁止されていますが、女子選手には自力がない選手も多くいます。
そのような選手は、デビューした時から強い自力型の選手のマークに専念する選手も増えてきました。
1着や上位を積極的に狙わず、なくなるべく良い着順を狙う戦法です。
これだと見ているほうも面白くありません。
競輪は、ラインの戦法を予想する奥の深いギャンブルです。
ヨコの動きが制限されているガールズケイリンでは、基本的には弱肉強食だけの世界になってしまっているのです。
女子選手は出産による影響もある
最近ガールズケイリンでは、出産後にママさんレーサーとして復帰する選手も今では珍しくありません。
代謝制度は過去3期の成績が適用されるのですが、妊娠した場合は「あっせん保留期間」が認められる事になります。
内容は「出産月の期を含めて3期間の出場が猶予される」とされており、出産から最長1年半の育休が認められているのです。
しかし、「出産月の期を含めて3期間」なので、6月や12月など期末に出産してしまった場合、実質1年しか育休が取れません。
妊娠後はあまりお腹に負担がかかるトレーニングができないのはもちろん、出産後は育児もあり、体力的な低下が著しくなっています。
そのため、復帰は出来てもしばらく成績が代謝対象になるほど極端に落ちてしまうという選手も少なくありません。
実際に出産した選手からも「育児をしながらのトレーニングなのでペースがつかめなかった」「準備期間として最長2年間を猶予期間にして欲しい」といった意見が多くあったそうです。
代謝制度で強制引退した記憶に残る女子選手
強制代謝になる選手の多くは、セレモニーなどなく人知れず引退していきます。
一部のファンはその日がラストランだと知っており、何でもない3日目の一般戦で歓声が上がり、「この選手は今日で代謝だったのか」と知る事も多いです。
今でも、1期生(第102期)の小林莉子選手や荒牧聖未選手などは、まだまだ第一線で活躍しています。
\ガールズケイリン/
しかし、自分の意思でなく代謝制度により引退する選手が出てくるのは仕方ないことかもしれません。
また、せっかく競輪選手養成所(競輪学校)を卒業しても、ストレート代謝する選手もいるのも事実です。
そんな中でも、私が個人的に記憶に残っている代謝選手を何名か紹介していきます。
「門脇真由美」元選手は50歳を超えた現役最年長選手だった
門脇真由美 | Wikipedia |
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ガールズ1期生で2023年7月に代謝となってしまった門脇選手。
つい最近までレースに出ていたので、見た事があるというファンの方も多いと思います。
ガールズの選手で現役生活11年が凄い事はもちろん、50代で競輪を続けていたガールズの選手は、2024年現在「門脇選手」と「高松選手」の2人だけです。
そんな門脇選手のラストランは本当に最後まで門脇選手らしい走りでファンや実況を沸かせてくれました。
スタートで2番手を取り、レースはにらみ合いが続き後ろからは誰もこない状況。
そのまま2番手を追走していれば良い着を狙う事も出来ましたが、門脇選手は残り一周手前で若手の誰よりも早く先行を狙います。
ほんのわずかな間でしたがホームでは先頭に立った門脇選手でしたが、先頭を走っていた選手と踏み合いになり再び2番手に後退。
並の選手であればここで終わって大差の最下位となるのですが、門脇選手は一呼吸置いた後、残り半周でもう一度番手捲りを狙いました。
結果としては力及ばず7着になってしまいましたが、最後の最後まで闘志みなぎる門脇選手らしいラストランだったと思います。
惜しまれる事があるとすればガールズケイリンが出来た2012年、門脇選手はすでに全盛期を過ぎていた事でしょうか。
門脇選手は1990年代にオリンピック日本代表を争うほどの実力者で、その後約10年のブランクがあって2012年にガールズケイリン1期生としてデビューしています。
もし全盛期にガールズケイリンでデビューしていたら、どれほど凄い成績を残していたのか…と、いろいろな想像をさせてくれる選手でした。
「田中麻衣美」元選手はモデルから転身した異色レーサー
田中麻衣美 | Wikipedia |
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門脇選手と同じく、ガールズ1期生としてデビューし、2022年に代謝となってしまった田中選手。
元モデルという経歴の持ち主であり、「顔より太もも。」というキャッチフレーズと共に、ガールズケイリンの初代モデルとしても活躍しました。
真っ赤なドレスとハイヒールを履いて自転車に跨る初代ポスターモデルの姿が、スタイル抜群すぎて今でも強く印象に残っているファンも多いのではないでしょうか(笑)
そんな田中選手のラストランはスタートで3番手をとり、前が逃げ切るレースとなったため、最後は外を踏みましたが抜くことは出来ず3着でゴール。
引退レースで車券に絡むのは凄いですが、平凡だったと感じるファンもいるかもしれません。
しかしこれこそ田中選手らしい引退レースだったと個人的には思っています。
デビュー当時は自力選手として自分で動くことが多かった田中選手でしたが、なかなか成績は振るわず10年間で751戦4勝という結果になっています。
2014年に代謝制度が導入されているので、4勝しかしていない選手がなぜ10年も選手を続けられたのか不思議に思う人も多いはずです。
今でこそ選手数も増えて191名となっているガールズケイリンですが、2014年といえばまだ選手数も少なく、気を抜けばあっという間に代謝というラインにいた田中選手。
それまで自力を使ってましたが、代謝制度により師匠から「自分の脚力を考えて走らないとすぐクビになるぞ」とアドバイスされたようです。
それからはとにかく2期連続で47点を取らない走りを心掛け、1着が4回だったのに対し2着は20回、3着は47回と車券に絡む事は多く、
個人的にも予選なら3着。
一般戦なら2.3着には入れておきたい選手でした。
それだけにラストランでもキッチリ3着に入った走りは田中選手らしい堅実な走りで印象に残っています。
「堀田萌那」元選手は1年半でストレート代謝
堀田萌那 | Wikipedia |
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最後に紹介するのは120期生としてデビューし、1年半でストレート代謝となってしまった堀田選手です。
ここまでは「いい意味」で印象に残っていた選手を紹介しましたが、堀田選手の場合は「かわいそう」という意味で記憶に残っています。
もちろんストレートで短い選手生活を終えたのも残念ですが、120期生は3名が1年半で強制代謝、半月後にはさらに2名が強制代謝となっています。
厳しい世界なので結果が出せなければ代謝になるのは仕方のない事ですが、なぜその中で堀田選手が記憶に残っているのかというと…引退レースが中止になってしまったからです。
堀田選手のラストランとなったのは年末のレースで、この時期は選手の確保が1番難しい時期でもあります。
補充選手がいない中で初日、2日目と終わり、ラストランとなるはずだった3日目。
この時点で初日に1名が当日欠場、2日目に失格で1名欠場となり、3日目は補充も無く5名でのレースが予定されていました。
しかし3日目にも当日欠場が出てしまい、選手が4名となったためレース自体が中止になってしまったのです。
これにより、堀田選手の引退レースは急遽前日のレースという事になってしまいました。
私はこの日、玉野競輪公式youtubeでレースの配信を見ていたのですが、「引退レース中止はかわいそう」「堀田ちゃんの引退レースが……」など、中止に対するコメントが流れていたのを覚えています。
「もし昨日が引退レースだと分かっていたら、もっと思い切った走りをしたのかな…」と考えてしまう最後でした。
女子選手のことをもっと知りたい人はこちらの記事にも興味があるかもしれません。
まとめ
ここまでガールズケイリンの代謝制度などについて紹介してきました。
やはり班分けやラインが無い分、男子以上に新人にとっては過酷な環境だと思います。
特に120期は5名も2年間で強制代謝になってしまいました。
解決策は、新人選手の代謝だけはゆるくするか、人数が多くなりランク分けされるしか方法はないのかもしれません。
ガールズケイリンが今以上に注目を集め、ファンからもっと求められるコンテンツになることが一番でしょう。
今後の発展に期待したいところです。
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